「ヘイ・ジュード」はビートルズの代表曲の一つ。両親の離婚を悲しんでいたジョン・レノンさんの息子ジュリアン君を励まそうと、ポール・マッカートニーさんが手掛けた。ファンは承知の裏話である。では“もう一つのヘイ・ジュード”は?

 旋律は同じ。でも詞が違う。旧チェコスロバキアの言葉で一新された、いわば「革命の歌」である。旧チェコの売れっ子だったマルタ・クビショバさんが詞を書き、歌った

 50年前のことだ。旧チェコの民主化運動「プラハの春」が、旧ソ連が主導した軍事介入でつぶされた時。クビショバさんは暴挙に怒り、祖国を励ますために歌おうと奮い立つ。詞をのせるのはラジオで流れる美しいこの曲に

 クビショバさんのヘイ・ジュードは国内で話題となったが、共産政権の弾圧に遭う。レコードは発売禁止、本人は一切の表現活動を禁じられた

 再び街に流れたのは21年後の1989年。ベルリンの壁崩壊に伴う民主化運動のシンボルソングとなった。曲は自由を願う人々の胸中に、ずっとあった。かつてNHKのドキュメンタリー番組がそう伝えたのを思い出す

 歌は世情を映す。争いや悲劇が背景にある歌は、本当は無い方がいいのだろう。けれど世界を見渡せば、どこかで紛争が起き、犠牲が絶えない。歌い続けるしかないのかもしれぬ、ずっと。