災害時に安否不明者の氏名を公表するかどうかについて徳島新聞が県内24市町村にアンケートしたところ、「公表する」としたのは3市町で、20市町村が「決めていない」と回答した。牟岐町のみ「公表しない」とした。西日本豪雨では氏名を周知して迅速な救助活動につながったケースもあった。県も明確な方針を示しておらず、自治体の消極的な姿勢に専門家からは「責任回避だ」と批判の声が上がっている。
「安否不明者が多数いる場合、氏名や年齢、住所を公表するか」との問いに対し、美馬市と神山、石井両町が「公表する」とした。徳島、鳴門両市や南海トラフ巨大地震で甚大な津波被害が想定される美波、海陽両町など20市町村は「決めていない」と答えた。
牟岐町は非公表の理由について「(公益性よりも)個人情報保護が優先されると考える」とし、対応を決めていない市町村からも「個人情報保護との兼ね合いが難しい」(小松島市)との回答が目立った。「国や県の指針が出れば従う」(東みよし町)など、他官庁に判断を委ねるとする自治体もあった。
美馬市は公表する方針だが「安否不明者の家族の了解を得た上で」との条件付きで、混乱が想定される非常時には実効性が弱まるとみられる。神山町は「安否不明者の早期発見につながる」、石井町は「生存情報が入りやすく、救助や捜索の円滑化につながる」との理由を挙げた。
県は「市町村の意見を聞きながら個々のケースを考慮して対応する」と明言を避けた。飯泉嘉門知事は記者会見で「氏名を全部出すのは難しい。正確に把握できれば出す」と慎重な姿勢を示し、国にガイドライン設定を求めた。国は各自治体に判断を任せている。
立教大の服部孝章名誉教授(メディア法)は「責任回避としかいえない。プライバシー保護をあまりにも優先させると救助が手遅れになる場合もある。住民の命を守るため行政は責任を持って情報を公表するべきで、一刻を争う事態に備えて普段から議論し、考えておくことが重要」と指摘した。
公表ガイドラインの作成 14市町「予定なし」
徳島新聞は個人情報の公開基準などを定めたガイドラインを作る予定の有無についても質問した。阿南、上勝、佐那河内、海陽、上板の5市町村は「ある」と答え、徳島、三好、美波、松茂、石井の5市町が「未定」、残りの14市町は「予定はない」とした。
阿南市危機管理課はガイドラインを作る理由について「他部署と認識を統一しておく必要がある」と回答。上板町は「災害時の個人情報の取り扱いが問題になっている」とした。海陽町は理由は示さなかったものの「公表するメリット、デメリットを検証したい」と答えた。
作る予定はないとした市町のうち、阿波市は「市町村ごとに対応が異なるのは避けたい」と説明。鳴門、小松島、美馬、藍住、北島、つるぎ、東みよしの7市町はいずれも「(国や県など)他機関の動向を見守る」という趣旨の回答をしている。