今、世界は再び、大国の身勝手な振る舞いで、多国間主義が揺らいでいる。

 「米国第一」を掲げるトランプ政権は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)からの離脱を決めるなど、単独行動主義にかじを切った。

 中国は南シナ海の軍事拠点化を進め、ロシアはウクライナ南部クリミアを併合した。各地で火種が絶えない。

 ウクライナ情勢やシリア内戦で米ロが激しく対立するたびに、安全保障理事会が機能不全に陥る。5大国の都合が優先される状況をいつまでも放置できない。

 先日亡くなった元国連事務総長のコフィ・アナン氏は国連改革を訴え続けた。現事務総長のグテレス氏は、アナン氏の遺志を引き継いでもらいたい。

 アナン氏は政治家でも外交官でもない、国連生え抜きで初めての事務総長だった。

 アフリカ・ガーナ出身で、弱者や人権を重んじる国連の基礎的な価値観を重視した。世界のグローバル化が進む中、国連を軸にした協調外交を進めた点が評価され、2001年にはノーベル平和賞を受賞している。

 世界の「調停役」と言われる国連事務総長として、たたえるべき功績は多い。

 事務総長を務めた1997~2006年は、米中枢同時テロやイラク戦争などが相次ぎ、大きく世界が揺れた時代だった。国連の存在価値が問われる中、アナン氏の苦悩も深かったようだ。

 同時テロの後、単独行動主義に傾いた米国のブッシュ政権は03年、イラク戦争に踏み切った。アナン氏は、安保理決議を経ずにイラク戦争を始めた米国を「国連憲章違反」と強く批判し、米国と国連の関係が悪化した。

 国連の円滑な運営には、米国との良好な関係が欠かせない。それでも、敢然とイラク戦争に反対したアナン氏は、国際社会の声を代弁する役割をしっかりと果たした。そうした胆力が活動を支えたのだろう。

 安保理を改革する必要があるとの立場から、日本の常任理事国入りも支持した。日本も安保理改革に向けた動きを、強めていかなければならない。

 地球温暖化防止のための京都議定書採択などの大きな成果も残した。

 長年、ミャンマーで対立が続いてきた仏教徒とイスラム教徒ロヒンギャの和解に向けても力を尽くし、「アナン勧告書」は問題解決の指針となっている。

 途上国が抱える課題克服を目指した、その姿勢は改めて評価されてよい。

 アナン氏は、貧困撲滅やエイズのまん延防止、女性の地位向上などをうたった「国連ミレニアム開発目標(MDGs)」を掲げた。

 「比類なき尊厳と決断力で国連を新たな時代へと導いた」とたたえたグテレス氏がどんな成果を挙げるか、その取り組みに期待したい。