シベリア抑留者が食べた黒パンを売り出した田渕さん=鳴門市大麻町桧のパン工房

シベリア抑留者が食べた黒パンを売り出した田渕さん=鳴門市大麻町桧のパン工房

 鳴門市大麻町桧の田渕豊さん(74)=元市議=が、第2次世界大戦後のシベリア抑留者が主食とした「黒パン」を売り出した。抑留体験者の樫原道雄さん(91)=同市大麻町萩原=が戦争の悲惨さを後世に伝えようと普及に取り組んできたが、高齢になったため、知人の田渕さんが引き継いだ。年明けから販売を本格化させている。

 樫原さんは旧満州(中国東北部)で終戦を迎え、シベリア抑留中に収容所内のパン工場で毎日4トンの黒パンを焼いた。1949年に復員後は自宅に窯を設け、黒パン作りを開始。元抑留者や知人らに提供してきた。原料の小麦も、近くの畑で自家栽培している。

 田渕さんはそんな樫原さんの活動を支援してきた理解者の一人。2010年に樫原さんの畑5アールを借りて小麦の栽培を始め、自宅にパン工房を設けた。自ら製粉した全粒粉を使い、樫原さんのレシピを忠実に再現した黒パンを焼き、家族や知人らに振る舞ってきた。

 戦争の記憶風化が懸念される中、田渕さんは「黒パンの歴史的価値を多くの人に知ってもらいたい」との思いを強くし、14年に焼き上げる量を増やして販売することを決意。小麦の作付面積を30アールに広げ、品種も病気に強い瀬戸内産の「せときらら」に切り替えた。

 地産地消を目指し、パン生地を発酵させる酵母や塩は鳴門市内で調達。樫原さんは、こうした田渕さんの活動に対して「腰を据えて黒パン作りを引き継いでくれ、本当にありがたい」と話す。

 黒パン販売は注文制で1斤約900円、2斤約1600円。田渕さんは「黒パンを通じて、戦争の歴史や食の安全安心に関心を持ってもらえたらうれしい。徳島のブランドに育てたい」と意気込んでいる。問い合わせは田渕さん<電088(689)1227>。

 黒パン 小麦の表皮や胚芽を含む全粒粉を使うパンの一種。一般の小麦粉を使ったパンより栄養価が高く、シベリア抑留者の食を支えた。かめばかむほど、甘みが増すのも特徴。胡桃沢(くるみざわ)耕史の直木賞受賞作「黒パン俘虜(ふりょ)記」でも有名。