ある勉強会で、小学生の回答に一本とられた気がした。講師はアフリカ・ケニアで貧しい子どもを支援する徳島市出身の松下照美さん(72)。筆者ばかりか、松下さんも感心していたぐらいだから、席を並べた大人の共通の感想だろう
質問はこうだ。「ケニアの公用語は何か」。正解は英語とスワヒリ語なのだが、指名された女の子は、しばらく考えて一言。「ケニア語」。なるほどな、そうきたか
例えばフランスに仏語あり、ドイツに独語あり、中国に中国語、韓国に韓国語がある。さすればケニア語という回答は、むしろ自然だ。なぜ「なるほど」と感心したのか、とふと思う
浮世の風にさらされてきた大人のことである。まずはこう考える。ケニアにケニア語なんていう単純な答えはありえない。第一、ケニア語など聞いたことがない。ありそうにない、とくれば少々偏見のにおいも混じる
ケニアには40を超す民族が暮らし、使う言葉も違う。スワヒリ語は交易言語として成立したが、英語は植民地時代に押し付けられたものだ
地図を広げれば他にも、自らの歴史さえ、侵略者の言葉で記さなければならない国々が随分とある。長く続いた、そして再び復活しようとしている力の時代の遺制である。小学生の真っすぐな回答が、日頃は顧みることもない歴史を思い起こさせてくれた。