「ためにする」現状分析ではないのか。そんな疑問も浮かぶ。

 本年版の防衛白書が公開された。昨年7月から今年6月にかけての情勢を主にまとめている。

 懸案となっている北朝鮮の核・ミサイルについては、「新たな段階の脅威」とした昨年版の表現を強め、「これまでにない重大かつ差し迫った脅威」と明記した。

 なるほど6月に行われた米朝首脳会談後も、核・ミサイル廃棄の動きは見られない。日本のほぼ全域を射程に収める中距離弾道ミサイル「ノドン」数百発が実戦配備されているなど、安心できる状況でないのは確かだ。

 ただ、一方では「安全保障上の厳しい状況は緩和された」(菅義偉官房長官)とし、政府は住民避難訓練を中止した。中四国や北海道に展開していたPAC3も撤収している。「脅威は薄れた」との見方もある中で、白書は危機をあおり過ぎではないか。

 しかし、そうしなければならないだけの理由があるようだ。北朝鮮の脅威を強調する背景には、高額装備の地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」導入を円滑に進める狙いがある。

 導入方針が揺らげば、米国製装備品の購入拡大を求めるトランプ米大統領の意向に沿うことができず、日米関係にも影響が及ぶ。そんな懸念もあっての表現なのだろう。

 当初800億円としていた地上イージスの本体価格は約1340億円に高騰し、土地造成費や建物の建設費などを含めると最終的に4千億円を超えるとされる。運用開始は2023年以降で、安保環境はさらに変化している可能性もある。費用対効果の面からも議論が分かれるところだ。

 小野寺五典防衛相は記者会見で「防衛省、自衛隊の能力をどのように高めていく必要があるか。方向性を国民に知ってもらう必要がある」と白書の意義を力説した。

 そのためには適切な情報公開が欠かせない。白書では陸上自衛隊によるイラク・南スーダン国連平和維持活動派遣の日報問題にも触れ、「文民統制に対する懸念や不信感を生じさせたことは重く受け止めなければならない」とした。しかし記載は5ページほど。いかにも簡略だったのはどうしたわけか。

 現代戦では宇宙、サイバー、電磁波といった領域の能力が「死活的に重要」と白書は断じる。要求する水準を満たすには右肩上がりの防衛費をさらに膨らませなければならないが、そもそも高額装備だけで国の安全は買えない。外交努力など総合力が問われる課題だ。

 年末に向けて、政府は新たな防衛力整備の指針「防衛計画の大綱」の策定作業に入った。限られた予算の中、「真に必要な防衛力のあるべき姿を見定めていく必要がある」(安倍晋三首相)。専守防衛の国らしくと、くぎを刺しておきたい。