徳島県小児科医会 日浦恭一(徳島新聞朝刊 満1歳にて掲載)

 母乳は子どもにとって最適な栄養であり、成長・発達を支え、感染症を始め多くの疾患の予防に有用であることは明らかです。

 しかし母乳栄養にも注意すべき点があります。母乳だけで育てる場合に不足しがちな栄養素があります。とくにビタミンK、ビタミンD、鉄、亜鉛などは不足する可能性の高い栄養素です。これらの栄養素は母親の栄養摂取量や健康状態に影響されます。

 さらに母乳を介して伝染するウィルスにも注意が要ります。ヒトT細胞白血病ウィルス(HTLV-1)は母乳で伝染します。感染を防御する移行抗体は生後3か月頃に消失しますから、その後も母乳を続けていると感染が成立します。早期の母乳栄養は可能ですが、断乳が遅れると感染の危険性が高くなります。生後3カ月まで母乳を続けた乳児を途中から人工栄養に変更することは大変困難であり、早期から人工栄養を進めています。

 またB型肝炎やC型肝炎では基本的には授乳可能ですが、乳首に傷があって出血が見られる場合には注意が要ります。

 母親が治療のために服用する薬剤の多くは母乳へ移行します。そのために母乳を中止しなければならない薬剤はそれ程多くはありません。抗がん剤や免疫抑制剤、放射性医薬品は基本的には授乳を中止します。向精神薬や抗てんかん薬も注意が必要な薬剤です。

 完全母乳栄養を望んでいるのに思うように授乳が出来ない場合もあります。様々な事情で母乳栄養を続けることの出来ない場合もあります。母親が安心して育児が出来る環境づくりや支援が大切です。