中国・秦の滅亡後、天下の覇権をかけた戦いも、楚の項羽、既に旗色悪く、劉邦率いる漢軍に包囲されてしまう。敵陣から聞こえてくるのは懐かしい故郷の歌。ああ、頼みとしてきた楚の民も、ついには降伏したか。敵中に孤立、助けなし。四面楚歌

 「力山を抜き気は世を蓋う」の辞世の詩を詠み、項羽は果てた。だが、この人は違う。テニスの四大大会最終戦、全米オープンで優勝した大坂なおみさんである。大一番にも力山を抜く勢いを失わず、憧れの存在だったセリーナ・ウィリアムズ選手を倒し、初出場から1世紀にわたる日本勢の悲願を達成した

 後味の悪い試合だった。会場を埋めたセリーナファンの度を越したブーイングの中で、よく自分を保てたものである。表彰式で流した涙は、喜びよりも、やりきれなさの分量が多かったかもしれない

 「みんながセリーナを応援していたのは分かっていたし、こんな終わり方になってごめんなさい」。けなげにインタビューに答える姿は、鋭いサーブと力強いショットのように、マナー外れのファンの心にも突き刺さったはずだ

 キャリアが始まったばかりの20歳。米紙の反応も好意的。新しいスターの誕生である

 女王を追い掛けて、山を駆け上ってきた大坂さん。2年後の東京五輪には疑いなく、追われる存在となっているのだろう。